エントリーNO.260
岩波文庫を1ページ読書
嵐が丘

解説文(「岩波文庫解説総目録」より引用)

北部英国、ヨークシャー州の一寒村に牧師の娘として生れ育ったブロンテ三姉妹の1人エミリ(1818-48)が残したただ1篇の長編小説。 ヒース茂る不毛の丘陵地帯を背景にして、2家族の親子2代にわたる愛憎の悲劇がくりひろげられる。 なかんずく、本能と欲情と意欲の塊である主人公ヒースクリフの性格造形は圧倒的な迫力をもつ。(全2冊)

発行
岩波文庫 1999年6月7日 第57刷
著者名
エミリ・ブロンテ  
タイトル
嵐が丘 (あらしがおか) 全2冊  
 
上記著作より、本文書き出し1ページを引用

    一 章
 一八〇一年----。いま私は、家主を訪問して帰ってきたばかりのところだが----この唯一の隣人とは、 これから何かにつけて、かかり合いになることだろう。 だが、じつに美しい土地だ!このイングランドのどこにも、 これほど完全に、世のさわがしさからへだてられた環境を、見つけることはできないと信ずる。 人間ぎらいにとっては、理想の天国だ。そしてヒースクリフ氏と私とは、この寂しさをともに味わうのに、ふさわしい相手だ。 あれはすばらしい男だ!私は、馬を乗りつけたとき、彼の黒い目が、ひどくいぶかしげに眉のかげに引きこもるのを見、 それから私の名を告げたとき、彼の指がかたく自己を守ろうというように、 チョッキのなかにかくれるのを見たが、それで私の心がどれほどあたたかく彼に対して燃えたか、彼もほとんど知るまい。
 「ヒースクリフさんですね」と私はいった。
 答えとしては、一つうなずいただけだった。
 「ぼくは、こんどお屋敷を借りたロックウッドです。到着して、できるだけ早く、ごあいさつにあがらせていただいたのは、 ぼくがあんなにしつこく、あのスラッシクロス屋敷に入りたいとおねがいしたことが、あなたに、ごめいわくかけることにならなければよかったが、 と思ったからなのです。じつは昨日、何かお気にさわったこともあったとか----」
 「スラッシクロス屋敷は、おれのものですが」と、彼は顔をしかめながら、私をさえぎった。


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