エントリーNO.259
岩波文庫を1ページ読書
白鯨

解説文(「岩波文庫解説総目録」より引用)

<モービィ・ディック>と呼ばれる巨大な白い鯨をめぐって繰り広げられる、 メルヴィル(1819-1891)の最高傑作。 海洋冒険小説の枠組みに納まりきらない法外なスケールと独自のスタイルを誇る、 象徴性に満ちた<知的ごった煮>。 (全3冊)

発行
岩波文庫 2004年8月19日 第1刷
著者名
メルヴィル  
タイトル
白鯨 (はくげい) 全3冊  
 
上記著作より、本文書き出し1ページを引用

    第一章 まぼろし
 わたしを「イシュメール」と呼んでもらおう。 何年かまえ----正確に何年まえかはどうでもよい----財布がほとんど底をつき、 (おか) にはかくべつ興味をひくものもなかったので、 ちょっとばかり船に乗って水の世界を見物してこようかと思った。 それがわが凶暴性をなだめ、血行をととのえるわたしなりの方法だった。 口をへの字にゆがめている自分にふと気づくときとか、 こころに冷たい11月の 霧雨(きりさめ) がふるときとか、 棺桶(かんおけ) 屋の店先でふと足をとめたり、 道で葬列にあうと、われにもあらず行列のしんがりについて行くようなときとか、 また 憂鬱(ゆううつ) の気がいやまさり、 よほどの自制心を発揮しないと、わざわざ通りにとびだし、人さまの帽子をひとつひとつ叩き落としてやりたくなるようなときとかには ----そういうときには、海に出かける潮時だ、とわたしはいつも納得する。


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