エントリーNO.256
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一房の葡萄

解説文(「岩波文庫解説総目録」より引用)

有島武郎(1878-1923)が生前に残した創作集は『一房の葡萄』ただ1冊である。 挿絵と装丁を自ら手がけ、早く母を失った3人の愛児への献辞とともに表題作ほか3篇の童話が収めてある。 童話とはいうものの、人生の真実が明暗ともに容赦なく書きこまれており、有島ならではの作となっている。 ほかに「火事とポチ」を加えた。(解説=中野孝次)

発行
岩波文庫 1988年12月16日 改版第1刷
著者名
有島 武郎 (ありしま たけお)  
タイトル
一房の葡萄 (ひとふさのぶどう) 他4篇  
 
上記著作より、本文書き出し1ページを引用

     一房(ひとふさ) 葡萄(ぶどう)
 僕は小さい時に絵を () くことが好きでした。 僕の (かよ) っていた学校は 横浜(よこはま) (やま) () という所にありましたが、 そこいらは西洋人ばかり住んでいる町で、僕の学校も教師は西洋人ばかりでした。 そしてその学校の () きかえりには、いつでもホテルや西洋人の会社などが、 ならんでいる海岸の通りを通るのでした。 通りの海添いに立って見ると、 真青(まっさお) な海の上に 軍艦(ぐんかん) だの商船だのが一ぱいならんでいて、 煙突から煙の出ているのや、帆柱から帆柱へ万国旗をかけわたしたのやがあって、 () がいたいように 綺麗(きれい) でした。 僕はよく岸に立ってその景色を見渡して、 (いえ) に帰ると、 (おぼ) えているだけを出来るだけ美しく絵に描いて見ようとしました。 けれどもあの () きとおるような海の 藍色(あいいろ) と、 白い 帆前船(ほまえせん) などの 水際(みずぎわ) 近くに塗ってある 洋紅色(ようこうしょく) とは、 僕の持っている 絵具(えのぐ) ではどうしてもうまく出せませんでした。 「サイト管理人 注 帆柱(=ほばしら)の旧字見当たらず」


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