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エントリーNO.250
岩波文庫を1ページ読書
棠陰比事

解説文(「岩波文庫解説総目録」より引用)

棠陰比事(とういんひじ) とは「名裁判くらべ」というほどの意味で、 この本には中国古来のすぐれた判決の実例が2つずつ対比するかたちで144例おさめられている。 江戸時代に伝来して圧倒的な人気を博し、これにならって『板倉政要』や『大岡政談』、西鶴の『本朝桜陰比事』などの裁判ものがかかれた。 推理小説ファンにとって見のがせぬ1冊である。

発行
岩波文庫 1992年7月16日 第7刷
訳者
駒田 信二 (こまだ しんじ)  
タイトル
棠陰比事 (とういんひじ)  
 
上記著作より、本文書き出し1ページを引用

丞相(じょうしょう) 向敏中(しょうびんちゅう) が、 西京(せいけい) の知事を兼ねていたときのことである。
 ある僧侶が、夕暮れ、村を通りかかって一夜の宿を乞うた。 その家の主人がことわると、それでは門の外にある 箱車(はこぐるま) の中に寝させて欲しいとたのんだ。 主人はそれをゆるした。
 その夜、賊がその家へしのびこんで、女を一人つれ出し、衣類の包みを持って、いっしょに逃げていった。 僧侶はまだ眠らずにいて偶然その次第を見たが、思うに、
 「自分はこの家の主人に宿をことわられて、無理に車の中に泊めてもらったのだ。夜があけたら主人はきっと自分に疑いをかけ、 (つか) まえて役所へつき出すにちがいない」
 そこで逃げ出したが、夜中に草むらの中を走っていくうちに、突然、古井戸へ落ちこんでしまった。 その井戸の中には、賊といっしょに逃げた女がすでに誰かに殺されていて、死体になっていた。その血が僧侶の衣についた。
 跡をつけてきた主人は、僧侶を捕まえて役所へつき出した。僧侶は拷問にたえきれず、ついに無実の罪を自供した。


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