エントリーNO.244
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平凡

解説文(「岩波文庫解説総目録」より引用)

『平凡物語』(1847年)はゴンチャロフ(1812-91)の出世作であり『オブローモフ』『断崖』とともに長篇三部作をなす。 ロマンチシズムをいだく感激屋で未経験な青年アレクサンドル。 対するは、人生経験豊富で海千山千の叔父ピョートル。 両極端な二人のやりとりがユーモアをまじえながら対比的に描かれる。(全2冊)

発行
岩波文庫 2010年6月16日 第1刷
著者名
ゴンチャロフ  
タイトル
平凡 (へいぼん) 全2冊  
 
上記著作より、本文書き出し1ページを引用

  第一篇
   第一章
 ある夏のこと、グラチー村の貧乏な女主人アンナ・パーヴロヴナ・アドゥーエワの (うち) では、 女主人から番犬のバルボースにいたるまで、みんな夜明け前に起き上がった。
 ただアンナ・パーヴロヴナの一人息子のアレクサンドル・フョードルィチが、 二十歳(はたち) の青年にふさわしい豪傑ねむりの夢をむすんでいるだけで、 (うち) じゅうの者はそわそわ、 せかせかと () け回っていた。 そのくせ 若旦那(わかだんな) の目をさまさせまいと、 みんな (つま) さき立って歩き、小声で話し合っていた。 ガチャンと音を立てたり大声で話したりする者があると、さっそくアンナ・パーヴロヴナが、 いきり立った 雌獅子(めすじし) のように飛び出して来て、 そのうかつ者をこっぴどく (しか) りつけ、 手ひどいあだ名でののしり、ひょとすると腹立ちまぎれに、力まかせに小突きまわすこともあった。
 旦那の家族といったら、アンナ・パーヴロヴナとアレクサンドル・フョードルィチのたった二人きりなのに、 お勝手では三人がかりで、まるで十人前も調理をするような騒ぎようだった。


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