エントリーNO.232
岩波文庫を1ページ読書
人さまざま

解説文(「岩波文庫解説総目録」より引用)

哲人でも賢人でもない古代ギリシアの平凡な人びとの世態人情、 それを明かしてくれるのがこの愛すべき小品だ。 アリストテレスの愛弟子テオプラストス(前372-288)が、つれづれの興にまかせて軽妙犀利な筆をふるった人物スケッチ30篇。 どのページを開けても、そこにはいにしえのギリシア庶民のさざめきがこだましている。

発行
岩波文庫 1984年5月16日 第4刷
著者名
テオプラストス  
タイトル
人さまざま (ひとさまざま)  
 
上記著作より、本文書き出し1ページを引用

   一 空とぼけ
 空とぼけとは、ひと言でその特色を述べると、行いでも言葉使いでも、じっさいより以下のふりをしてみせることのように思われる。 そこで、空とぼけをする人とは、たとえばつぎのような人である。
 すなわち、自分に敵意を抱く人たちのもとへ出かけた場合、ことさらにあれこれと口をきき、 憎んでいる素ぶりも見せない。 そして、陰ではやっつけておきながら、いざ面と向かうと、その人たちをほめそやし、またその人たちが落ち目になれば、同情すら示す。 そして、自分の悪口を言う者たちを寛大に黙認し、自分に向けられたさまざまな悪口にも 苛立(いらだ) ったりはしない。
 さらに、彼のために不正をこうむり、憤っている人たちに対しては、穏やかな調子で話をすすめる。そして、いますぐにも逢いたいと望む者には、出直してもらうように言い含める。


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