エントリーNO.231
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ポケットアンソロジー この愛のゆくえ

解説文(「岩波文庫解説総目録」より引用)

愛といっても種々様々。作家たちはそれぞれの視角から愛に光を当て、 愛の諸相を垣間見させてくれる。 カルヴィーノ、坂口安吾、プラトーノフ、岡本かの子、ユルスナール、 三島由紀夫、R・ギャリ、吉田知子、D・レッシングなど、粒選りの二六篇が交錯する。

発行
岩波文庫 2011年6月16日 第1刷
編者
中村 邦夫 (なかむら くにお)  
タイトル
 ポケットアンソロジー この愛のゆくえ(このあいのゆくえ)  
 
上記著作より、本文書き出し1ページを引用

   T
  魔法の庭       イタロ・カルヴィーノ
                  和田忠彦訳
 ジョヴァンニーノとセレネッラは線路を歩いていた。 下には一面、ふかい青と明るい空色のうろこ模様の海、上にはうっすら白い雲のたなびく空。 レールはきらめき、 () けそうに熱かった。 線路を歩くのは楽しいし、遊びだっていろいろできた。 片方のレールに男の子が、もう片方に女の子がのって手をつなぎ、 釣り合いをとりながら歩いてみたり、 砂利(じゃり) に足をつかずに枕木から枕木へ () び移ったりするのだ。 ジョヴァンニーノとセレネッラは (かに) 採りの帰り道、 今度はトンネルのなかまで線路を探検することにした。 セレネッラと遊ぶのは楽しかった。 他の女の子たちのように何でも怖がったり、ちょっとからかっただけで泣きだしたりしないからだ。 「あそこへ行こうぜ」とジョヴァンニーノがいえば、セレネッラはいつだってぐずぐずいわずについてきた。
 ガシャン!ふたりはどきっとして上を見た。信号機の先端で 転轍器(てんてつき) の円盤が () ねたのだ。 (くちばし) を突然閉ざした鉄製のコウノトリみたいだった。


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