エントリーNO.209
岩波文庫を1ページ読書
心変わり

解説文(「岩波文庫解説総目録」より引用)

早朝、汽車に乗り込んだ「きみ」はローマに住む愛人とパリで同棲する決意をしていた。 「きみ」の内面はローマを背景とした愛の歓びに彩られていたが、旅の疲労とともに・・・。 一九五〇年代の文壇に二人称の語りで颯爽と登場したフランス小説。ルノード賞受賞作。

発行
岩波文庫 2005年11月16日 第1刷
著者名
ミッシェル・ビュトール   
タイトル
心変わり (こころがわり)  
 
上記著作より、本文書き出し1ページを引用

第一部
  1
 きみは 真鍮(しんちゅう) の溝の上に左足を置き、 右肩で扉を横にすこし押してみるがうまく () かない。
 狭い入口のへりで体をこすりながら、きみはなかにはいり、それから、ぶどう酒の瓶のような暗緑色の、表面が粒状になった革製のスーツケース、 長い旅行になれた男がよく手にしている小型のスーツケースのべとべとする握りのところを、あまり重くはないのだが、ここまでもってくることで熱っぽくなっている指でにぎって、 もちあげると、きみの筋肉と腱の輪郭が、きみの一本一本の指、 (てのひら) 、 握ったこぶし、腕に、さらにはきみの肩にも背中の片側半分にも、脊椎のくびから腰にいたるまでにも、くっきりと浮かびあがるのを、きみは感じる。
(サイト管理人 注 ”くび”旧字見当たらず)


copyrighit (c) 2011 岩波文庫を1ページ読書