エントリーNO.207
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窪田空穂随筆集

解説文(「岩波文庫解説総目録」より引用)

近代日本を代表する歌人の一人である窪田空穂(1877-1967)は、柳田国男を尊敬し、 民俗学に大いなる関心を持っていたが、そのような空穂の考えをよく伝える随筆集。 明治の農村文化の豊かさ、大正初めの東京名所巡り、早稲田大学の思い出などを述べた文章からは、 明治・大正の日本が鮮やかによみがえってくる。29篇を収録。

発行
岩波文庫 1998年6月16日 第1刷
編者
大岡 信 (おおおか まこと)  
タイトル
窪田空穂随筆集 (くぼたうつぼずいひつしゅう)  
 
上記著作より、本文書き出し1ページを引用

   農村の文化
 ラジオで折々、農村の経済や文化の実情を紹介している。それを聞き得るときには、私は注意して聞いているが、 いつの場合にもつまらなかったと思ったことはない。それは私が農村に育って来たからのことであろう。
 今の文化は範囲が広く、業務上の教養、家庭の風習、娯楽と、様々な面にわたっており、 また村民全体を対象としたものであって背後には科学的精神をもらったものである。 一見、相応に清新なものに感じられ、こうしたものは、正に () く最近に始まったもので、 以前にはなかったもの、あるいは絶無なものであったと、今の人々は感じることである。 (しか) るに老年者の私にはそうは思えない。 以前の農村は、今は漠然と想像されている如き非文化的なものではなく、否、今日に比較して、ある意味ではむしろより高度の文化を保持していたものである。 私はそれを実証する一例として、私の生まれて少年期より青年期までを過ごした村、及びその周辺の二、三村について、十分に信頼のできる人々の口を通して聞いたことで、 この眼でそれを確かめ得ていると思うこと、また身をもって親しく接していることを通じて、そのことを語りたいと思う。


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