エントリーNO.203
岩波文庫を1ページ読書
武家の女性

解説文(「岩波文庫解説総目録」より引用)

幕末の水戸藩の下級武士の家に生まれ育った母・千世の思い出話をもとに、 武士の家庭と女性の日常の暮しをいきいきと描きだした庶民生活誌。 動乱に明けくれる苛酷な時代の中で精一杯生きぬく女たちが巧みな筆致で描かれる。 女性解放運動のすぐれた思想家であった著者が、戦時下の閉塞状況の中で書き下ろした名著。 (解説=芳賀 徹)

発行
岩波文庫 1984年5月16日 第4刷
著者名
山川 菊栄 (やまかわ きくえ)  
タイトル
武家の女性 (ぶけのじょせい)  
 
上記著作より、本文書き出し1ページを引用

   はしがき
 ひと口に武家の日常といっても、鎌倉時代、戦国時代、江戸時代と、おのおの時代的な違いや特色があり、 また同じ江戸時代でも、年代により、地方により、身分階級によってそれぞれ違いのあったことはいうまでもありません。 私がここに御紹介するのは、安政4年、水戸に生まれ、今年八十七歳になる老母の思い出を主とした、 幕末の水戸藩の下級武士の家庭と女性の日常の様子でありますから、その点を御承知おき願いたいと思います。
 私の母は 千世(ちせ) といい、 水戸藩士青山延寿の娘で、母は関口家の女、量市という兄とふゆという妹とがありました。 延寿は父を延于といい、延光、延昌、延之という三人の兄があり、いずれも水戸藩に仕え、 『大日本史』編修と 弘道館(こうどうかん) の教職にたずさわっておりました。 姉二人は宮寺家と手塚家とへ嫁しました。
 延寿は明治五年東京に移り、しばらく仕官しましたが、数年で退き、もっぱら著述や旅行を楽しんで世を終えました。 私たちの一家はこの祖父と隣合せで一家も同然に暮して育ち、私の姉と兄とは、七、八歳から祖父に詩作を学び、 また毎夜のように呼ばれては歴史の話などを聞いたものです。


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