エントリーNO.201
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地獄の季節

解説文(「岩波文庫解説総目録」より引用)

16歳にして第一級の詩をうみだし、数年のうちに他の文学者の一生に比すべき文学的燃焼をなしとげて彗星のごとく消え去った詩人ランボオ(1854-91)。 ヴェルレーヌが「非凡な心理的自伝」と評した散文詩『地獄の季節』は彼が文学にたたきつけた絶縁状であり、 若き天才の圧縮された文学的生涯のすべてがここに結晶している。

発行
岩波文庫 1992年3月15日 第46刷
著者名
ランボオ  
タイトル
地獄の季節 (じごくのきせつ)  
 
上記著作より、本文書き出し1ページを引用

   地獄の季節
 かつては、もし (おれ) の記憶が確かならば、 俺の生活は (うたげ) であった、誰の心も開き、 酒という酒はことごとく流れ出た (うたげ) であった。
 ある夜、おれは『美』を膝の上に座られた。----苦々しい (やつ) だと思った。 ----俺はおもいっきり毒づいてやった。
 俺は正義に対して武装した。
 俺は逃げた。ああ、魔女よ、悲惨よ、憎しみよ、俺の宝が託されたのは 貴様(きさま) らだ。
 俺はとうとう人間の望みという望みを、俺の精神の (うち) に、 悶絶(もんぜつ) させてしまったのだ。 あらゆる (よろこ) びを絞殺するために、その上で猛獣のように情け容赦もなく躍り上がったのだ。
 俺は死刑執行人らを呼び、絶え入ろうとして、奴らの銃の台尻に () みついた。 連枷(れんか) を呼び、血と砂とに (まみ) れて窒息した。 不幸は俺の神であった。泥の中に寝そべり、罪の風に喉は () れ、 しかも俺が演じたものは底抜けの御座興だった。
 こうして春はむごたらしい 痴呆(ちほう) の笑いをもたらした。
 ところが、ついこの間の事。いよいよ最後のへまも仕出かそうとなった時、俺は昔の (うたげ) の鍵はと思い迷った。 存外また 食気(くいけ) が起こらぬものでもあるまい、と。


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