エントリーNO.197
岩波文庫を1ページ読書
無関心な人びと

解説文(「岩波文庫解説総目録」より引用)

20世紀を代表する作家モラーヴィア(1907-90)の処女作。 主人公の青年ミケーレは、自分をとりまく現実と自分とのずれを意識している。 が、あらゆる行為に情熱が持てず、周囲に対して徹底した無関心におちこんでゆく。 ローマの中産階級の退廃と、その中で苦悩する若者を描いたこの作品は、当時のファッショ政権から発禁処分をうけた。(全2冊)

発行
岩波文庫 1991年10月16日 第1刷
著者名
モラーヴィア  
タイトル
無関心な人びと (むかんしんなひとびと) 全2冊  
 
上記著作より、本文書き出し1ページを引用

   第一章
 カルラが入ってきた。栗色のウールのふだん着を着ている。もう小さくなったスカートが、ひどく短い。 ドアを閉めようと振り向いただけで、すそが一五、六センチもちあがり、太腿のストッキングの (しわ) をのぞかせた。 が、彼女はそれに気づかない。よろめきながら、手さぐりで、目の前をおぼつかなげに見つめ、注意深く進んでくる。 スタンドがひとつ (とも) っているだけ。 それが、長椅子にすわったレーオの膝を照らし出している。 あとは灰色の闇が客間を包んでいた。
 「ママはいま着替えてるところなの」彼女は近づきながら言った。「すぐに、おりてくるわ」
 「いっしょに持っていよう」男は前かがみになった。「おいで、ここに、カルラ、ここにおかけ」しかしカルラはその申し出は受けなかった。 ナイトテーブルのそばに立ったまま、スタンドのかさの描く光の円を目で追った。


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