エントリーNO.193
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タイム・マシン

解説文(「岩波文庫解説総目録」より引用)

八十万年後の世界からもどってきた時間旅行家が見た人類の未来はいかなるものであったか。 衰退した未来社会を描き出した「タイム・マシン」は、進歩の果てにやってくる人類の破滅と地球の終焉をテーマとしたSF不朽の古典である。 他に「水晶の卵」等9篇収録。

発行
岩波文庫 1993年5月18日 第5刷
著者名
H.G.ウエルズ  
タイトル
タイム・マシン (他9篇)  
 
上記著作より、本文書き出し1ページを引用

  一 序奏
  時間飛行家(タイム・トラヴェラー) (実名はふせて、こう呼ぶほうがいいだろう)は非常に難解なことを説明していた。 ほんらい色白の彼の顔がその晩は生々と 紅色(あかみ) をおび、淡い灰色の (ひとみ) がきらきらと輝いていた。 暖炉はほどよく燃えあがり、百合の花の型をした銀の 燭台(しょくだい) の柔らかな光が酒のグラスに当たって、 なかの泡が光っては消えてゆく。私たちは彼の考案した特殊な椅子に心地よく座っている----いや座っているというより抱かれて 愛撫(あいぶ) されているようであった。 そして食後に訪れるあの満ち足りた気分----そんなとき、だれもが勝手気ままな空想に (ふけ) るものだ。 彼は細い人差指で論点を強調しながら話を続けていた。 私たちはかれの 逆説(パラドックス) (----とそのときは思ったのだ)と豊かな想像力にただうっとり感心していた。
 「いいかい、よく聴いてくれよ。ぼくはこれから常識的には自明と思われている一、二のことをくつがえしてみせるぞ。 たとえば、君らが学校で習った幾何学なんだが、あれは根本的に間違っているのさ」
 それを聞いて赤毛のフィルビーがまず口を開いた。彼は大変な議論好きなのだ。


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