エントリーNO.186
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侏儒の言葉・文芸的な、あまりに文芸的な

解説文(「岩波文庫解説総目録」より引用)

「打ち下ろすハンマアのリズムを聞け」----芸術の永遠に滅びざることをこう表現した芥川は、 死の前の4年間アフォリズムの刃を研ぎ澄まし「侏儒の言葉」を書きついだ。 一方、谷崎潤一郎との二度の論争に底深く覗いた「文芸上の極北」とは何であったか。 最晩年の箴言集と評論集。(解説=平出隆)

発行
岩波文庫 2006年4月14日 第3刷
著者名
芥川竜之介 (あくたがわ りゅのすけ)  
タイトル
侏儒の言葉・文芸的な、あまりに文芸的な (しゅじゅのことば・ぶんげいてきな、あまりにぶんげいてきな)  
 
上記著作より、本文書き出し1ページを引用

  侏儒の言葉
    星
 太陽の (した) に新しきことはなしとは古人の 道破(どうは) した言葉である。 しかし新しいことのないのは独り太陽の下ばかりではない。
 天文学者の説によれば、ヘラクレス星群を発した光は 我我(われわれ) の地球へ達するのに三万六千光年を要するそうである。 が、ヘラクレス星群といえども、永久に輝いていることは出来ない。 いつか一度は 冷灰(れいかい) のように、美しい光を失ってしまう。 のみならず死はどこへ行っても常に生を (はら) んでいる。 光を失ったヘラクレス星群も無辺の天をさまよう内に、都合の好い機会を得さえすれば、一団の星雲と変化するであろう。 そうすればまた新しい星は続々とそこに生まれるのである。
 宇宙の大に比すれば、太陽も一点の 燐火(りんか) に過ぎない。 いわんや我我の地球をやである。


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