エントリーNO.183
岩波文庫を1ページ読書
恐るべき子供たち

解説文(「岩波文庫解説総目録」より引用)

詩人コクトー(1889-1963)の手にかかると、子供の世界も、 ギリシア悲劇を思わせる格調の高さをもって、妖しく輝き出す。 白い雪の玉で傷ついた少年ポールが、黒い丸薬で自殺するという幻想的な雰囲気のなかに登場する少年少女は、 愛し、憎み、夢のように美しく、しかも悲痛な宿命をになって死んでゆく。

発行
岩波文庫 2009年4月24日 第68刷
著者名
コクトー  
タイトル
恐るべき子供たち (おそるべきこどもたち)  
 
上記著作より、本文書き出し1ページを引用

    第一部
 シテ・モンチエはアムステルダム街とクリッシー街にはさまれている。 クリッシー街の側からは、柵を越えて入って行き、アムステルダム街の側からは、 いつも開け放しになっている大門と、建物のトンネルの下をくぐって入って行く。 その建物の中庭がシテになるわけだ。それはごく細長い中庭で、そこには幾つもの小さなアトリエが、 びっしり立ち並んだ家々の高い壁の下にかくれている。これらのアトリエには写真屋の持っているような、カーテンのついたガラスが屋根の上にのっているが、 そこにはきっと画家たちが住んでいるに違いない。こうしたアトリエには、武器や 金襴(きんらん) や、籠に入った猫の絵を描いた画布や、 ボリヴィアの大臣の家族たちの肖像画などが、びっしり詰まっているように思われる。 アトリエの住人たちは、誰にも名を知られずに暮らしているくせに、自分ではもうひとかど有名になったつもりで、こんなに註文が来ちゃやりきれないとか、 政府から褒美をもらうのは有難迷惑だとか、頭のなかであれこれ思いめぐらしながら、 シテの (ひな) びた静けさのおかげで、不安も感じないで、その日その日を送っている。
 しかし、一日に二度だけ、朝の十時半と、夕方の四時半には、餓鬼大将の群れがこのあたりの静けさを掻きみだす。 というのは、この時刻になると、コンドルセ高等中学が、アムステルダム街七十二番地の「ろ」に面した小さな門を開け放つからだ。 すると、生徒たちは、シテを彼らの大本営にしてしまう。 これが生徒たちのグレーブの広場(パリ市庁のある広場。ここでさまざまな祭典が挙行され、また罪人の処刑も行われた。)なのだ。


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