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エントリーNO.20
岩波文庫を1ページ読書

           解説文(「岩波文庫解説総目録」より引用)
旧社会において極度に卑しめられた被差別部落出身の小学教員丑松が父の戒めを破り、 公衆の前に自らの素性を告白するまでの激しい苦悩の過程を描く。 四民平等は名目だけの明治文明に対する鋭い批判を含み、 丑松の苦悩を通し日本の悲劇をえぐり出した本篇こそ、 真に近代日本文学史上最高の記念碑といえよう。 初版本による。    解説=野間宏

発行
 岩波文庫 2008年5月23日 第8刷
著者名
 島崎 藤村 (しまざき とうそん)
タイトル
 破戒 (はかい)
                    上記著作より、本文書き出し1ページを引用

     第一章
      一
  蓮華寺(れんげじ) では下宿を兼ねた。 瀬川丑松(せがわうしまつ) が急に 転宿(やどがえ) を思い立って、 借りることにした 部屋(へや) というのは、 その 蔵裏(くり) つづきにある二階の (かど) のところ。 寺は 信州水内郡飯山町(しもみのちごおりいいやままち) 二十何ヶ () の一つ、 真宗(しんしゅう) に附属する 古刹(こさつ) で、 丁度(ちょうど) その二階の窓によりかかって眺めると、 銀杏(いちょう) の大木を (へだ) てて飯山の町の一部分も見える。 さすが信州第一の仏教の地、古代を 眼前(めのまえ) に見るような小都会、 奇異な北国風の 屋造(やづくり) 板葺(いたぶき) の屋根、 または冬期の 雪除(ゆきよけ) として使用する特別の 軒庇(のきびさし) から、 ところどころに高く (あらわ) れた寺院と樹木の梢まで---すべて (ふる) めかしい町の 光景(ありさま) が香の (けぶり) の中に包まれて見える。 ただ 一際(ひときわ) 目立ってこの窓から望まれるものと言えば、 現に丑松が奉職しているその小学校の白く塗った 建築物(たてもの) であった。
 丑松が転宿を思い立ったのは、実は甚だ不快に感ずることが今の下宿に起こったからで。 もっとも (まかない) でも安くなければ、誰もこんな部屋に満足するものはなかろう。 壁は壁紙で張りつめて、それで (すす) けて茶色になっていた。
          (サイト管理者注 三行目の旧字”よりかかって”をひらがなに)  

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