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エントリーNO.16
岩波文庫を1ページ読書

           解説文(「岩波文庫解説総目録」より引用)
「しつこい、毒々しい、こせこせした、その上ずうずうしい、 いやな奴」で埋まっている俗界を脱して非人情の世界に遊ぼうとする画工の物語。 作者自身これを「閑文字」と評しているが果たしてそうか。 主人公の行動や理論の悠長さとは裏腹にこれはどこを切っても漱石の熱い血が噴き出す体の作品なのである。    解説・注=重松泰雄

発行
 岩波文庫 2008年10月15日 第103刷
著者名
 夏目 漱石 (なつめ そうせき)
タイトル
 草枕 (くさまくら)
                    上記著作より、本文書き出し1ページを引用

          一
  山路(やまみち) を登りながら、こう考えた。   () に働けば (かど) が立つ。 (じょう) (さお) させば流される。 意地を通せば窮屈だ。とかくに人の世は住みにくい。
 住みにくさが (こう) じると、安い所へ引き越したくなる。 どこへ越しても住みにくいと悟った時、詩が生まれて、 () が出来る。
 人の世を作ったものは神でもなければ鬼でもない。やはり向う三軒両隣りにちらちらするただの人である。 ただの人が作った人の世が住みにくいからとて、越す国はあるまい。 あれば人でなしの国へ行くばかりだ。人でなしの国は人の世よりもなお住みにくかろう。
 越す事のならぬ世が住みにくければ、住みにくい所をどれほどか、 寛容(くつろげ) て、 (つか) () の命を、 束の間でも住みよくせねばならぬ。ここに詩人という天職が出来て、 ここに画家という使命が (くだ) る。 あらゆる芸術の士は人の世を 長閑(のどか) にし、 人の心を豊かにするが (ゆえ) (たつ) とい。
 住みにくき世から、住みにくき (わずら) いを引き抜いて、 ありがたい世界をまのあたりに写すのが詩である、画である。

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