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エントリーNO.15
岩波文庫を1ページ読書

           解説文(「岩波文庫解説総目録」より引用)
大学入学のために九州から上京した三四郎は東京の新しい空気のなかで、 世界と人生について一つ一つ経験を重ねながら成長してゆく。 筋書だけをとり出せば「三四郎」は一見何の変哲もない教養小説と見えるが、 卓越した小説の戦略家漱石は一筋縄では行かぬ小説企みを実はたっぷりと仕掛けているのだ。

発行
 岩波文庫 2008年2月15日 第93刷
著者名
 夏目 漱石 (なつめ そうせき)
タイトル
 三四郎 (さんしろう)
                    上記著作より、本文書き出し1ページを引用

 うとうとして () () めると女は 何時(いつ) の間にか、 隣の (じい) さんと話を始めている。 この爺さんたしかに前の前の駅から乗った 田舎者(いなかもの) である。 発車 間際(まぎわ) 頓狂(とんきょう) な声を出して、 () け込んで、 来ていきなり肌を抜いだと思ったら 背中(せなか) 御灸(おきゅう) (あと) が一杯あったので、 三四郎(さんしろう) の記憶に残っている。 爺さんが汗を () いて、肌を入れて、 女の隣に腰を懸けたまでよく注意して見ていた位である。
 女とは京都からの 相乗(あいのり) である。乗った時から三四郎の目に着いた。 第一色が黒い。三四郎は九州から山陽線に移って、段々京大阪へ近付いてくるうちに、 女の色が次第に白くなるので何時の間にか故郷を 遠退(とおの) くような (あわ) れを感じていた。 それでこの女が車室に 這入(はい) って来た時は、 何となく異性の味方を得た心持ちがした。この女の色は実際九州 (いろ) であった。   三輪田(みわた) 御光(おみつ) さんと同じ色である。 国を立つ間際までは、お光さんは、うるさい女であった。 (そば) を離れるのが大いにありがたかった。 けれども、こうして見るとお光さんのようなのも決して悪くはない。
 ただ 顔立(かおだち) からいうと、この女の方がよほど上等である。口に締まりがある。 眼が 判明(はつきり) している。 (ひたい) がお光さんのようにだだっ広くない。 何となく () い心持に出来上がっている。
(サイト管理人 注 2行目「たしか」の旧字を平仮名で表示)

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