上記著作より、本文書き出し1ページを引用
うとうとして 眼 が 覚 めると女は 何時 の間にか、
隣の 爺 さんと話を始めている。
この爺さんたしかに前の前の駅から乗った 田舎者 である。
発車 間際 に 頓狂 な声を出して、
駆 け込んで、
来ていきなり肌を抜いだと思ったら 背中 に 御灸 の 痕 が一杯あったので、
三四郎 の記憶に残っている。
爺さんが汗を 拭 いて、肌を入れて、
女の隣に腰を懸けたまでよく注意して見ていた位である。
女とは京都からの 相乗 である。乗った時から三四郎の目に着いた。
第一色が黒い。三四郎は九州から山陽線に移って、段々京大阪へ近付いてくるうちに、
女の色が次第に白くなるので何時の間にか故郷を 遠退 くような 憐 れを感じていた。
それでこの女が車室に 這入 って来た時は、
何となく異性の味方を得た心持ちがした。この女の色は実際九州 色 であった。
三輪田 の 御光 さんと同じ色である。
国を立つ間際までは、お光さんは、うるさい女であった。 傍 を離れるのが大いにありがたかった。
けれども、こうして見るとお光さんのようなのも決して悪くはない。
ただ 顔立 からいうと、この女の方がよほど上等である。口に締まりがある。
眼が 判明 している。
額 がお光さんのようにだだっ広くない。
何となく 好 い心持に出来上がっている。
(サイト管理人 注 2行目「たしか」の旧字を平仮名で表示)