エントリーNO.180
岩波文庫を1ページ読書
日本児童文学名作集

解説文(「岩波文庫解説総目録」より引用)

明治維新にはじまる文明開化の時代、西欧の文学に触れた人々の中から、 新たな児童文学の作品がうみだされはじめ、児童読物の世界は一変した。 上巻には、イソップ、グリム、アンデルセンの日本初紹介の作品をはじめ、 巌谷小波「こがね丸」、竹久夢二「春坊」、小川未明「赤い船」、 鈴木三重吉「デイモンとピシアス」など17篇を収める。(全2冊)

発行
岩波文庫 1994年4月11日 第2刷
編者
桑原三郎 (くわばら さぶろう) 千葉俊二 (ちば しゅんじ)  
タイトル
日本児童文学名作集 (にほんじどうぶんがくめいさくしゅう) 全2冊  
 
上記著作より、本文書き出し1ページを引用

 イソップ物語抄
  (「 童蒙教草(どうもうおしえぐさ) より
 福沢諭吉 <ふくざわゆきち>
---- 当サイトによる中略 ------
    子供と 蝦蟇(かえる) との事
  蝦蟇(かえる) あまた (すま) へる池の (ほとり) に、 大勢の子供来りて池の中へ小石を投げ、二つ玉の3つ玉のとて、 数百(すうひゃく) の小石一時に水に落ち、蝦蟇の 難渋(なんじゅう) ひとかたならず、 今にも命 (あやう) しと共に心配したりしが、 そが中に 一疋(いっぴき) の強き蝦蟇あり。 危き場合を恐れもせず、水の (おもて) (かしら) (いだ) して声高らかにいひけるは、 あら慈悲なき子供 (かな) 如何(いか) で悪事を学ぶの (すみやか) なる、 君のためには (なぐさみ) なるも、我らがためには一命に (かか) ることなり、よくも物事の道理を勘弁し給うべしと。
   百姓その子に遺言の事
  () る百姓 (やまい) (かかり) て全快のほども 覚束(おぼつか) なきに至り、 つらつら死後の事を案じて、農業は我生涯 (つと) めし仕事なれば子供らへもこの業を継がして 出精(しゅつせい) させたきものと思ひぬれば、 (すなわ) ち工夫を (めぐ) らして兄弟の子供を呼び、 遺言して (いわ) く、 (なんじ) らへ 遺物(ゆいもつ) として与ふる物は我 田地(でんち) 葡萄(ぶどう) の畑となり、これを汝兄弟にて 寄合(よりあい) に保つべし、 されどもこの田畑を決して他人の手に渡すべからず、 その 子細(しさい) は田畑の外に余は別の宝物を所持する () も計りがたし、もしこれあらば地面の下一尺より深からざる処へ埋め置きしはずなりと。
 子供らはこの遺言を聞き、病人の宝物といひしは (かね) (たくわえ) 金子(きんす) を畑へ埋めしに相違なしと思ひ、 親父(おやじ) の死後に至り、兄弟力を合わせてその田地も葡萄の畑も隅々に至るまで () きかへしたりしが、一銭の金も 掘出(ほりいだ) さずして一時は (おおい) に気を落としたけれども、かく地面を鋤きかへしたるに () り、 その年の作物は格別によく (みの) り、秋の収納に至てこれを見れば、真に宝物を掘出せしに異ならざりしと。


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