エントリーNO.173
岩波文庫を1ページ読書
緑の家

解説文(「岩波文庫解説総目録」より引用)

町外れの砂原に建つ<緑の家>、中世を思わせる生活が営まれている密林の中の修道院、 石器時代そのままの世界が残るインディオの集落・・・。豊饒な想像力と現実描写で、小説の面白さ、 醍醐味を十二分に味わわせてくれる、現代ラテンアメリカ文学の傑作。

発行
岩波文庫 2010年8月19日 第1刷
著者名
バルガス=リョサ  
タイトル
緑の家 (みどりのいえ) 全2巻  
 
上記著作より、本文書き出し1ページを引用

 軍曹はちらっとシスター・パトリシアのほうを (うかが) う。 (あぶ) は相変わらず動こうとしない。 両岸の緑の壁から熱気をはらんだ (もや) () き、 (はだ) にまつわりつく。 緑の壁の間を縫って流れる 泥水(どろみず) の上で、ランチはさかんにかぶりを振る。 緑と黄がかった真昼の光線から身を守るように上半身裸の治安警備員たちが、テントの下で背中を丸くして眠っている。 <チビ>(チキート) の頭は <デブ>(ぺサード) の腹の上にのっかっている。 <金髪>(ルビオ) は玉のような汗をかき、 <クロ>(オスクーロ) の大きくあいた口からいびきが () れている。 パラソルを差しかけたようにランチに群がっている小さな虫。 (ちょう) やスズメバチ、大きな (はえ) などが、 みんなのまわりを飛び回っている。単調な音をひびかせていたエンジンが一瞬あえぎ、ふたたび元にもどる。 船頭のニエベスは左手で (かじ) をあやつりながら、右手でタバコを () っている。 麦藁(むぎわら) 帽子のかげの日焼けした顔は、ほとんど表情を変えない。 こいつら密林で暮らしている連中は、まったく変わってるな。どうして、ほかの人間のように汗をかかないんだ?船尾に行儀よく (すわ) っているシスター・アンヘリカは、 固く目を閉じている。顔には少なくとも千本の (しわ) があるだろう。 ときおり、舌の先をのぞかせて 上唇(うわくちびる) にたまった汗を () め、 (つば) を吐く。


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