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エントリーNO.167
岩波文庫を1ページ読書
影をなくした男

解説文(「岩波文庫解説総目録」より引用)

「影をゆずってはいただけませんか?」謎の灰色服の男に乞われるままに、 シュレミールは引き替えの”幸運の金袋”を受け取ったが-----。 大金持ちになったものの、影がないばっかりに世間の冷たい仕打ちに苦しまねばならない青年の運命をメルヘンチックで描く。

発行
岩波文庫 2010年2月5日 第40刷
著者名
シャミッソー  
タイトル
影をなくした男 (かげをなくしたおとこ)  
 
上記著作より、本文書き出し1ページを引用

   1
 航路つつがなく、とはいえ私にとっては (つら) い船旅でしたが、 それでもようやく待ちにまった港に着きました。 ボートで運ばれ (おか) に上がるやいなや身のまわりの品を一つにまとめ、 肩にかついで通りの人ごみをわけて進み、看板にひかれるままに、もよりの安宿に入りました。部屋をたのむとボーイはひと目でこちらの 懐中(ふところ) ぐあいを見てとったらしく、 さっさと屋根裏部屋に案内するのでした。コップ一杯の水を所望したのち、やおら私はトーマス・ヨーン氏の住居はどこかたずねました。
 「町はずれの北の城門を出てすぐのところ、右手の建物がそうですよ。大きな新しいお屋敷で、紅白だんだら模様の大理石づくりでしてね。 円柱がどっさり立ち並んでおりますよ」
 ひと安心というわでですが-----それにしてもまだ早朝のこと、ひと息いれてからというものです。 荷を解いて仕立て直したばかりの黒い上衣を取り出しました。 上下ともさっぱりした 一張羅(いっちょうら) に着替えると紹介状をポケットにおさめ、宿を出ました。


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