エントリーNO.165
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小林秀雄初期文芸論集

解説文(「岩波文庫解説総目録」より引用)

日本の近代文学の批評の場に新たな地平を拓いた批評家小林秀雄の初期評論集。 昭和4年(1929)のデビュー作「様々なる意匠」にはじまる独特の詩魂に彩られた若き日の著者の文学的達成を、 その出発から昭和10年までに区切って精選、年代順に配列した。 それ以前の重要な1篇「ランボオ」をも併せ収める。(解説=中村光夫)

発行
岩波文庫 1988年4月15日 第10刷
著者名
小林 秀雄 (こばやし ひでお)  
タイトル
小林秀雄初期文芸論集 (こばやしひでおしょきぶんげいろんしゅう)  
 
上記著作より、本文書き出し1ページを引用

   様々なる意匠
             懐疑は、おそらくは叡智の始めかも知れない、しかし、叡
             智の始まる処に芸術は終わるのだ。 アンドレ・ジイド
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 吾々にとって幸福な事か不幸な事か知らないが、世に一つとして簡単に片付く問題はない。 遠い昔、人間が意識と共に与えられた言葉という吾々の思索の唯一の武器は、依然として昔ながらの魔術を止めない。 劣悪を 指嗾(しそう) しない如何なる崇高な言葉もなく、 崇高を指嗾しない如何なる劣悪な言葉もない。 しかも、もし言葉がその人心 眩惑(げんわく) の魔術を捨てたら恐らく影に過ぎまい。
 私は、ここで問題を提出したり解決したりしょうとは思わぬ。 私はただ世の騒然たる文芸批評家等が、騒然と行動する必要のために見ぬ振りをした種々な事実を拾い上げたいと思う。 私はただ、彼らが何故にあらゆる意匠を凝らして登場しなければならぬかを、少々不審に思うばかりである。 私には常に舞台より楽屋の方が面白い。 このような私にも、やっぱり軍略は必要だとするなら、「 搦手(からめて) から」、 これが私には最も人性論的法則に (かな) った軍略に見えるのだ。


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