エントリーNO.142
岩波文庫を1ページ読書

解説文(「岩波文庫解説総目録」より引用)

ルーアンの新聞に「日曜語録」として連載されたのを皮切りに、総計5000に上るアランの「プロポ」(哲学断章)。 「哲学を文学に、文学を哲学に」変えようとするこの独特の文章は「フランス散文の傑作」と評される。 幸福に関する93のプロポを収めた本書は、日本でも早くから親しまれてきたもの。折りにふれゆっくりと味わいたい。

発行
岩波文庫 2010年4月15日 第19刷
著者名
アラン  
タイトル
幸福論 (こうふくろん)  
 
上記著作より、本文書き出し1ページを引用

  1  名馬ブケファラス
 幼な子が泣いてどうにも泣きやまない時、乳母はしばしば、その子の幼い性格について、 好き嫌いについてまことにうまい想定をあれこれとするものだ。これは親から受け継いだものだから、 と言って、すでにその子のなかに父親の姿をみとめるのだ。 こうした心理的詮索が続いて最後にようやく乳母は、すべてのことが生まれたほんとうの原因、つまりピンをみつけるのである。
 名馬ブケファラスが若いアレクサンドロス(紀元前356-323。マケドニア王アレクサ ンドロス三世)に贈られた時、どんな名人もこの荒馬を手なずけることができなかった。 凡俗な者だったら、あきらめて「まったく (たち) の悪い馬だ」とでも言っただろう。ところが、アレクサンドロスはピンをさがし、たちまち見つけた。 ブケファラスは自分の影にひどく怯えているのがわかった。 恐怖で飛び上がると影も跳ねるので 際限(きり) がないのだ。 アレクサンドロスは馬の鼻を太陽に向けた。この方法で支えると、馬は落ち着き疲れを示した。 こうして、このアリストテレスの教え子はすでに、ほんとうの原因を知らないかぎり、情念を癒すことができないのを知っていた。


copyrighit (c) 2011 岩波文庫を1ページ読書