エントリーNO.124
岩波文庫を1ページ読書

解説文(「岩波文庫解説総目録」より引用)

絶妙のプロット、独特のユーモアとペーソス。 この短篇の名手(1862-1910)は、時代と国境をこえて今も読者の心をとらえつづけている。 それはしかし、単に秀抜な小説作法の故ではないであろう。 彼の作品には、この世の辛酸を十分になめた生活者の、ずしりと重い体験がどこかで反響しているからである。 傑作20篇をえらんだ。

発行
岩波文庫 2010年4月26日 第53刷
著者名
オー・ヘンリー  
タイトル
オー・ヘンリー傑作選 (オー・ヘンリーけっさくせん)  
 
上記著作より、本文書き出し1ページを引用

  賢者の贈り物
 一ドル八十セント。それでぜんぶだった。それもそのうち六十セントは一セント銅貨だ。 乾物屋や八百屋や肉屋でけちけち値切って、はては、そんなしみったれた買いかたを無言のうちに非難されて顔から火の出る想いまでして、 一枚、二枚と貯めた銅貨だった。デラは三度数え直した。 一ドル八十七セント。そして明日はもうクリスマスだった。
 みすぼらしい小さいソファに身を投げ出して、おいおい泣くよりほかに手はなかった。 だからデラは泣いた。そうなると考えたくなる---人生は「むせび泣き」と「すすり泣き」と「 微笑(ほほえ) み」から成り立っているのだと。 なかでは「すすり泣き」がいちばん多くを占めているのだが。
 この家の主婦がだんだん落着いてむせび泣きからすすり泣きの段階に移ってくる間に、部屋を 一瞥(いちべつ) しておこう。


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