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エントリーNO.120
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解説文(「岩波文庫解説総目録」より引用) 母をめぐる父との熾烈な争い、葬儀に届いた赤い花輪の謎、過去を抱えた女に誘惑される風来坊、、、。 戦争の影漂うアイルランドを舞台に、人々の日常に芽生える物語を、ユーモラスに、ミステリアスに描く、短篇の名手オコナー(1903-66)。滋味溢れる十一篇。 |
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発行
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岩波文庫 2010年4月26日 第3刷
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著者名
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フランク・オコナー
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タイトル
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フランク・オコナー短篇集
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ぼくのエディプス・コンプレクス
戦争の間ずっと----といっても第一次大戦のことだけど----父さんは軍隊にいた。
だからぼくは五歳になるまで父さんとゆっくり過ごしたことはなく、たまに会う父さんは別に嫌な感じではなかった。
夜、ふと目を覚ますとカーキーの服を着た大きい人がろうそくの光の中に見える、あるいは朝早く、玄関の扉がばたんと閉まり、裏に鉄を打ったブーツが石の道を踏みしめていく。
そんな風に現れたり去ったりするのが、ぼくにとっての父さんだった。どこからともなく登場し、どこへともなく消えていく。まるでサンタ・クロースだった。
父さんが帰ってくるのを、ぼくはとても楽しみにしていた。ベッドで母さんと父さんの間に朝早くもぐりこむのは窮屈だったけど。
父さんがタバコを吸うと、こもったようないい匂いがしたし、髭を剃るところなど見ていてどきどきした。
帰ってくるたびに記念のものも置いていった----模型の戦車、弾丸入れでできた取っ手つきのグルカ兵式ナイフ、ドイツ軍のヘルメットやバッジ、
ボタン磨きの棒(金属または木製で、ボタンを磨くとき、服が汚れないようにボタンだけ頭を出す穴があけてある)など、どれも軍関係の小物だった。