エントリーNO.114
岩波文庫を1ページ読書

解説文(「岩波文庫解説総目録」より引用)

アベラールの自伝「厄災の記」が語る神学者の栄光と蹉跌、去勢事件、修道士への転身。 「神なき修道女」となったエロイーズからの懊悩の手紙に、いかに答え、いかに導いたか。 中世古典の白眉から「愛の手紙」部分を新訳。波瀾の男の最期を伝える資料を付す。

発行
岩波文庫 2009年9月16日 第1刷
訳者
沓掛 良彦・横山 安由美 (くつかけ よしひこ・よこやま あゆみ)  
タイトル
アベラールとエロイーズ愛の往復書簡 (あいのおうふくしょかん)  
 
上記著作より、本文書き出し1ページを引用

 第一書簡
 厄災の記---アベラールから友人への慰めの手紙
 人間の感情を (たか) ぶらせたり (なだ) めたりするのは、ことばよりも実例だということがしばしばあるものです。 ですから、先回お会いして親しくあれこれお慰め申し上げたのに引き続き、 私自身が体験したもろもろの不幸を書きつらねて、遠くにおられる貴君をお慰めしょうと思い立った次第です。 それも、私の不幸にくらべれば、貴君の不幸などは不幸などとはとても言えたものではないか、 ほんのささいな試練に過ぎないということをお認めになって、もっと気楽にそれに耐えていただきたいと願ってのことなのです。
 生まれ故郷について
 私はブルターニュ地方の入り口にある、ナントの東方八マイルほどのところに位置するル・パレーという町の生まれです。 その地の気風によるものかあるいは一族の気質を享けてのことでしょうが、私は生まれつき闊達な気性で、 学問への趣味嗜好をいだいておりました。父は武人として剣を帯びるようになる前になにほどか学問的教養を身につけていたのですが、 後には学問への強い愛情を (つの) らせるあまりに、自分のすべての息子たちに、 武人としての修業をさせるに先立って、まず学問教育を施しておこうと思ったのでした。そしてそれをしかと実行したのです。


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