エントリーNO.107
岩波文庫を1ページ読書

解説文(「岩波文庫解説総目録」より引用)

「夏になると女の人の声にひびきがはいり、張りを帯びてうつくしくなる」。 声、二の腕、あくび、死顔、そして蛇。老作家が抱き続ける「女ひと」への尽きぬ思いを、 哀しみとおかしみを交えて軽やかに綴る。晩年の犀星ブームを導いた豊潤なエッセイ集。 解説=小島千加子

発行
岩波文庫 2010年4月15日 第2刷
著者名
室生 犀星 (むろう さいせい)  
タイトル
女ひと (おんなひと)  
 
上記著作より、本文書き出し1ページを引用

  えもいわれざる人
 女の人に物をおくるということは、たいへん嬉しいものである。ほれているとか、 ほれていないとかいうことは問題ではない、ちょっとした好ましい人とか、 きれいな人であれば何かのお礼心に物をおくる機会があって、その品物をえらんだりする気分は、 なかなか得難いおんがく的なものである。 伊勢物語などに女に贈る物を持っていない外出の折などには、下帯を解いて贈り、 あるいは袖の一部分を解いて贈り、また扇をあたえて後日のよすがにしたり、 公けに贈る場合は (うちぎ) (かさね) の衣装をまとめて、あたえていた。 大抵贈り物に衣装が主だったのが、永い七、八百年の後代にも (すた) れずに、 いまだに女の人におくるものは、衣装でなければ衣装に付随したものであった。 冬が近づいて、けんらんな歳暮の情景は、平安朝の 寥々(りょうりょう) たる贈り物のしなの薄いのに引きかえ、 手袋マフラ 外套(がいとう) など、なんでも買ってかがやくものを贈ることが出来るのである。 () し意中のひと


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