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エントリーNO.85
岩波文庫を1ページ読書

           解説文(「岩波文庫解説総目録」より引用)
横町の奥の崖下の暗い家で世間に背をむけてひっそりと生きる宗助と御米。 「彼らは自業自得で、彼らの未来を塗抹した」が、一度犯した罪はどこまでも追って来る。 彼を襲う「運命の力」が全篇を通じて徹底した<映像=言語>で描かれる。 「三四郎」「それから」に続く三部作の終篇。解説=辻邦生 注=石崎等

発行
 岩波文庫 2009年4月6日 第76刷
著者名
 夏目 漱石 (なつめ そうせき)
タイトル
 門 (もん)
                    上記著作より、本文書き出し1ページを引用

  宗助(そうすけ) 先刻(さっき) から 縁側(えんがわ) 坐蒲団(ざぶとん) を持ち出して日当たりの好さそうな所へ気楽に 胡座(あぐら) をかいて見たが、 やがて手に持っている雑誌を (ほう) り出すと共に、ごろりと横になった。 秋日和(あきびより) と名のつくほどの上天気なので、 往来を行く人の 下駄(げた) (ひびき) が、 静かな町だけに、 (ほが) らかに聞えて来る。 肘枕(ひじまくら) をして軒から上を見上ると、 奇麗(きれい) な空が一面に (あお) く澄んでいる。 その空が自分の () ている縁側の窮屈な寸法に (くら) べて見ると、非常に広大である。 たまの日曜にこうして (ゆっ) くり空を見るだけでも 大分(だいぶ) 違うなと思いながら、 (まゆ) を寄せて、 ぎらぎらする日を 少時(しばらく) 見詰めていたが、 (まぶ) しくなったので、今度はぐるりと寝返りをして障子の方を向いた。 障子の中では細君が 裁縫(しごと) をしている。
 「おい、 () い天気だな」と話し掛けた。細君は、
 「ええ」といったなりであった。宗助も別に話がしたい訳でもなかったと見えて、それ
なり黙ってしまった。しばらくすると今度は細君の方から、
 「ちっと散歩でもしていらっしゃい」といった。しかしその時は宗助がただうんという
生返事を返しただけであった。
 二,三分して、細君は障子の 硝子(ガラス) の所へ顔を寄せて、 縁側に寝ている夫の姿を (のぞ) いて見た。
  (サイト管理人 注 ”寝る”の旧字見当たらず。)

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