上記著作より、本文書き出し1ページを引用
宗助 は 先刻 から 縁側 へ 坐蒲団 を持ち出して日当たりの好さそうな所へ気楽に 胡座 をかいて見たが、
やがて手に持っている雑誌を 放 り出すと共に、ごろりと横になった。
秋日和 と名のつくほどの上天気なので、
往来を行く人の 下駄 の 響 が、
静かな町だけに、 朗 らかに聞えて来る。
肘枕 をして軒から上を見上ると、
奇麗 な空が一面に 蒼 く澄んでいる。
その空が自分の 寝 ている縁側の窮屈な寸法に 較 べて見ると、非常に広大である。
たまの日曜にこうして 緩 くり空を見るだけでも 大分 違うなと思いながら、
眉 を寄せて、
ぎらぎらする日を 少時 見詰めていたが、
眩 しくなったので、今度はぐるりと寝返りをして障子の方を向いた。
障子の中では細君が 裁縫 をしている。
「おい、 好 い天気だな」と話し掛けた。細君は、
「ええ」といったなりであった。宗助も別に話がしたい訳でもなかったと見えて、それ
なり黙ってしまった。しばらくすると今度は細君の方から、
「ちっと散歩でもしていらっしゃい」といった。しかしその時は宗助がただうんという
生返事を返しただけであった。
二,三分して、細君は障子の 硝子 の所へ顔を寄せて、
縁側に寝ている夫の姿を 覗 いて見た。
(サイト管理人 注 ”寝る”の旧字見当たらず。)