上記著作より、本文書き出し1ページを引用
一 蛙の王さま (一名)鉄のハインリヒ
むかしむかしのおお 昔 、まだ人のねがいごとがなんでもかなったころのこと、
一人 の王さまが 住 んでいました。
王さまのお 姫 さまがたは、どれもこれも、
うつくしかったのですが、そのなかでも、いちばんすえのかたは、きわだってうつくしく、お日さまなどは、そういうのをたくさん見なれていらっしゃるのに、
このおひめさまばかりは、 顔 をお 照 らしになるたんびに、
どうしてこんなにうつくしいのかと、ふしぎにおぼしめすほどでした。
王さまのお 城 のちかくに、
大きな 暗 い森があって、
その森のなかには、 菩提樹 の 古木 の根がたに、
水のもくもくわきだしているところが一かしょありました。
熱くってしょうのない日には、
おひめさまは森のなかにはいって、このすずしい 泉 のへりにすわることにしていました。
それから、 退屈 すると、
黄金 のまりをだして、
それをまっすぐにほうりあげては、落ちてくるのを下でうけとるのがおきまりで、
これが、おひめさまのなによりすきな 遊戯 でありました。
ところが、あるとき、この 黄金 のまりが、
どうしたのか、お姫さまのさしあげていたかわいらしい手のなかへは落ちてこず、
すれちがいに 地 めんへすとんとおちて、
そのまま、ころころと、水のなかへころげこみました。
おひめさまはまりのころがったほうへ目をつけましたが、まりは 影 もかたちもありません。
泉は、ふかいのなんの、 底 なんかとても見えるものではないのです。