エントリーNO.475
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迷宮としての世界

解説文(「岩波文庫解説総目録」或いは、表紙より引用)

ルネッサンスは自然の理想化的表現に至ったが、ミケランジェロにはすでに調和的な古典主義と異なる表現が現われていた。 主観にもとづく精神の創造力に価値をおくマニエリスムは世界を迷宮としても表現し、二十世紀に復権する。 膨大な例証による詳説。(全二冊)

発行
岩波文庫 2010年12月16日 第1刷
著者名
グスタフ・ルネ・ホッケ  
タイトル
迷宮としての世界 (めいきゅうとしてのせかい) 全2冊  
 
上記著作より、本文書き出し1ページを引用

    T 最初の衝撃
 サトゥルヌスの憂鬱
 一五五四年から一五五六年にかけて、フィレンツェの画家ヤコポ・ダ・ポントルモ(一四九四〜一五五七)は、 おそらくかつてヨーロッパの芸術家が遺したもっとも注目に値する日記を、書き綴った。 そこに語られているのは、ほとんど、この畸人の自ら調理したけちくさい食事や、断食日や、かなり立ち入った健康上の配慮や、たまさかの交友などのことである。 そしてルネッサンスの調和的世界の最初の重要な「脱獄者」であるこの男は、こうした類いのさる事件のために、 「打ちのめされた」ことさえあったのである。 これほど貧乏ったらしい、これほど単調な、また同時に「人間的」という言葉のごく初歩的な意味で、これほど人間的な記録というものは、まず想像できないだろう。 この日記は----それだけでも十分に注目に値することだが----はじめ一九一六年にアメリカで、ポントルモの 素描(デッサン) についての研究の付録として英語で公表され、 一九五六年イタリアで母国語で公表された。


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