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エントリーNO.9
岩波文庫を1ページ読書

           解説文(「岩波文庫解説総目録」より引用)
選ばれた強者には凡人のためにつくられた法を踏み越える権利がある。 ---大学生ラスコーリニコフはこう確信して一金貸し老婆とその妹を撲殺する。 が、その直後からたちまち彼の信念はゆらぎはじめ、 不安と苦悩に満ちた悪夢のような日々が始まった。 作者ドフトエフスキーの名を一躍世界的なものに高めたあまりにも有名な名作。

発行
 岩波文庫 2008年7月25日 第15刷
著者名
 ドストエフスキー
タイトル
 罪と罰 (つみとばつ) 全三巻
                    上記著作より、本文書き出し1ページを引用

 七月はじめ、めっぽう暑いさかりのある日暮どき、ひとりの青年が、 S横町にまた借りしている狭くるしい小部屋からおもてに出て、のろくさと、 どこかためらいがちに、K橋のほうへ歩きだした。
 青年はうまいこと階段で下宿の 主婦(おかみ) と出くわさずにすんだ。 彼の小部屋は、五階建ての高い建物をのぼりつめた屋根裏にあり、部屋というより戸棚という感じだった。 おまけに階段ひとつ下が、まかないと女中つきでここを彼に貸している主婦の住居なので、青年は外出のたび、 たいてい階段のほうに向けてあけはなしになっている主婦の台所のわきを、いやでも通らなければならなかった。 青年は毎度、そこを通るたびに、一種病的な気おくれにとらわれ、それがわれながら恥ずかしく、顔をしかめた。 主婦にたいそうな借りがあるので、顔をあわすのがこわかったのである。

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