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エントリーNO.8
岩波文庫を1ページ読書

           解説文(「岩波文庫解説総目録」より引用)
大正7年の5月、 20代の和辻哲郎(1889-1960)は唐招提寺・薬師寺・法隆寺・中宮寺など奈良付近の寺々に遊んださい、 飛鳥・奈良の古建築・古美術に相対し、その印象を若さと情熱をこめて書きとめた。 鋭く繊細な直感、自由な想像力の飛翔、東西両文化にわたる該博な知識が一体となった、 みごとな美の世界がここにある。
   解説=谷川徹三 写真=入江泰吉

発行
 岩波文庫 2007年9月25日 第53刷
著者名
 和辻 哲郎 (わつじ てつろう)
タイトル
 古寺巡礼 (こじじゅんれい)
                    上記著作より、本文書き出し1ページを引用

          一
   アジャンター壁画の模写--ギリシアとの関係--宗教画として
   の意味--ペルシア使臣の画

 昨夜出発の前のわずかな時間に、Z君の所でアジャンター壁画の模写を見せてもらった。 予想外に大きい画面で、色彩も写真で想像していたよりははるかにきれいだった。 急いで見たのだから詳しい印象は残っていないが、それでも汽車に乗ってから絶えずこの画に心を捕らわれていることを感じた。 今朝京都の停車場で、T君やF氏と別れて、ひとりポツネンと食堂車にすわっていると、 あの画のことがまた強く意識の表面に浮かび上がって来た。
 *荒井寛方氏の労作、この後五六年を経て、大正一二年の関東大震災の際、 東京帝国大学文学部の美術史研究所において 烏有(うゆう) に帰した。
 アジャンター壁画の模写から受けた印象のうちで、最も忘れられないものの一つは、あの一種独特な色調である。 色の明るさや濃淡の工合が我々の見なれているものとはひどく違う。

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