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エントリーNO.7
岩波文庫を1ページ読書

           解説文(「岩波文庫解説総目録」より引用)
柳田国男・渋沢敬三の指導下に、生涯旅する人として、 日本各地の民間伝承を克明に調査した宮本常一(1907-1981)が、 文字を持つ人びとの作る歴史から忘れ去られた日本人の暮らしを堀り起し、 「民話」を生み出した伝承する共同体の有様を愛情深く描きだす。 「土佐源氏」「女の世間」等13篇からなる宮本民俗学の代表作。
          解説=網野善彦

発行
 岩波文庫 2007年8月6日 第55刷
著者名
 宮本 常一 (みやもと つねいち)
タイトル
  (わす) れられた 日本人(にほんじん)
                    上記著作より、本文書き出し1ページを引用

対馬にて
  一 寄りあい
 伊奈の村は対馬も北端に近い西海岸にあって、古くはクジラのとれたところである。 私はその村に三日いた。二日目の朝早くホラ貝の鳴る音で目がさめた。村の寄りあいがあるのだという。 朝出がけにお宮のそばを通ると、森の中に大ぜい人が集まっていた。私はそれから、 村の旧家を訪ねていろいろ話をきき、昼すぎまたお宮のそばを通ると、まだ人々がはなしあっていた。 昼飯もたべないではなしているのだろうかと思って、いったい何が協議せられているかに興をおぼえたが、 その場できいても見ないで宿へかえり、午後区長の家をたずねた。区長はまだ若い人で寄りあいの席に出ており、 家にはその父にあたる老人がいた。 この村で区長をつとめるのは郷土の家の戸主にかぎられており、老人も若いときには区長をつとめていた。 明治以前には 下知役(げちやく) とよばれる役目であった。

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