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エントリーNO.4
岩波文庫を1ページ読書

           解説文(「岩波文庫解説総目録」より引用)
猫を語り手として苦沙弥・迷亭ら太平の逸民たちに滑稽と風刺を存分に演じさせ語らせたこの小説は「坊ちゃん」とあい通ずる特徴を持っている。 それは溢れるような言語の湧出と歯切れのいい文体である。 この豊かな小説言語の水脈を発見することで英文学者・漱石の小説家漱石(1867−1916)となった。
解説=高橋英夫 注=斉藤恵子

発行
 岩波文庫 2007年12月5日 第29刷
著者名
 夏目 漱石 (なつめ そうせき)
タイトル
  吾輩(わがはい) (ねこ) である
                    上記著作より、本文書き出し1ページを引用

                           一
 吾輩は猫であ () 。名前はまだない。
 どこで生まれたのか (とん) と見当がつかぬ。何でも薄暗いじめじめした所でニャーニャー泣いていた事だけは記憶している。 吾輩はここで始めて人間というものを見た。しかしあとで聞くとそれは書生という人間中で一番 獰悪(どうあく) な種族であったそうだ。 この書生というのは時々我々を (つか) まえて煮て食うという話である。 しかしその当時は何という (かんがえ) もなかったから別段恐ろしいとも思わなかった。 ただ彼の (てのひら) に載せられてスーと持ち上げられたとき何だかフワフワした感じがあったばかりである。 掌の上で少し落ち付いて書生の顔を見たのがいわゆる人間というものの 見始(みばじめ) であろう。 この時妙なものだと思った感じが今でも残っている。第一毛を以って装飾されるべきはずの顔がつるつるしてまるで 薬缶(やかん) だ。 その後猫にも大分 () ったがこんな片輪には一度も 出会(でく) わした事がない。 のみならず顔の真ん中が余りに突起している。そうしてその穴の中から時々ぷうぷうと (けむり) を吹く。 どうも () せぽくて実に弱った。 これが人間の飲む 煙草(たばこ) というものである事は漸くこの (ごろ) 知った。

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