上記著作より、本文書き出し1ページを引用
親譲りの 無鉄砲 で子供の時から損ばかりしている。
小学校にいる 時分 学校の二階から飛び降りて一週間ほど腰を抜かしたことがある。
なぜそんな 無闇 をしたと聞く人があるかも知れぬ。
別段深い理由でもない。新築の二階から首を出していたら、同級生の一人が冗談に、
いくら 威張 っても、そこから飛び降りる事は出来まい。
弱虫やーい。と 囃 したからである。
小使 に 負 ぶさって帰って来た時、親父が大きな 眼 をして二階位から飛び降りて腰を抜かす 奴 があるかといったから、
この次は抜かさずに飛んで見せますと答えた。
親類のものから西洋製のナイフを 貰 って 奇麗 な刃を日に 翳 して、
友達に見せていたら、一人が光ることは光るが切れそうもないといった。
切れぬ事があるか、何でも切って見せると受け合った。
そんなら君の指を切って見ろと注文したから、何だ指位この通りだと右の手の親指の甲をはすに切り込んだ。
幸 ナイフが小さいのと、
親指の骨が 堅 かったので、
今だに親指は手に付いている。しかし 創痕 は死ぬまで消えぬ。
庭を東へ二十歩に行き尽くすと、南上がりに 聊 かばかりの 菜園 があって、
真中に 栗 の木が一本立っている。
これは命より大事な栗だ。実の熟する時分は起き抜けに 背戸 を出て落ちた奴を拾ってきて、学校で食う。
菜園の西側が 山城屋 という質屋の庭続きで、この 質屋 に勘太郎という一三、四の倅がいた。