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エントリーNO.2
岩波文庫を1ページ読書

           解説文(「岩波文庫解説総目録」より引用)
「坊ちゃん」は数ある漱石の作品中もっとも広く親しまれている。 直情径行、無鉄砲でやたら喧嘩早い坊ちゃんが赤シャツ・狸たちの一党をむこうにまわしてくり展げる痛快な物語は何度読んでも胸がすく。 が、痛快だ、面白いとばかりも言っていられない。坊ちゃんは、要するに敗退するのである。
               解説・注=平岡敏夫

発行
 岩波文庫 2008年4月4日 第109刷
著者名
 夏目 漱石(なつめ そうせき)
タイトル
 坊っちゃん (ぼっちゃん)
                    上記著作より、本文書き出し1ページを引用

 親譲りの 無鉄砲(むてつぽう) で子供の時から損ばかりしている。 小学校にいる 時分(じぶん*) 学校の二階から飛び降りて一週間ほど腰を抜かしたことがある。 なぜそんな 無闇(むやみ) をしたと聞く人があるかも知れぬ。 別段深い理由でもない。新築の二階から首を出していたら、同級生の一人が冗談に、 いくら 威張(いば) っても、そこから飛び降りる事は出来まい。 弱虫やーい。と (はや) したからである。 小使(こづかい) () ぶさって帰って来た時、親父が大きな () をして二階位から飛び降りて腰を抜かす (やつ) があるかといったから、 この次は抜かさずに飛んで見せますと答えた。
 親類のものから西洋製のナイフを (もら) って 奇麗(きれい) な刃を日に (かざ) して、 友達に見せていたら、一人が光ることは光るが切れそうもないといった。 切れぬ事があるか、何でも切って見せると受け合った。 そんなら君の指を切って見ろと注文したから、何だ指位この通りだと右の手の親指の甲をはすに切り込んだ。 (さいわい) ナイフが小さいのと、 親指の骨が (かた) かったので、 今だに親指は手に付いている。しかし 創痕(きずあと) は死ぬまで消えぬ。
 庭を東へ二十歩に行き尽くすと、南上がりに (いささ) かばかりの 菜園(さいえん) があって、 真中に (くり) の木が一本立っている。 これは命より大事な栗だ。実の熟する時分は起き抜けに 背戸(せど) を出て落ちた奴を拾ってきて、学校で食う。 菜園の西側が 山城屋(やましろや) という質屋の庭続きで、この 質屋(しちや) に勘太郎という一三、四の倅がいた。

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