エントリーNO.501
岩波文庫を1ページ読書
漱石書簡集

解説文(「岩波文庫解説総目録」或いは、表紙より引用)

漱石の手紙を読むと、この類まれな人物のあらゆる心の動きがその温もりとともに伝わってくるように感ずる。 友人の正岡子規、妻の鏡子、弟子の寺田寅彦・小宮豊隆などに宛てた手紙一五八通。 漱石を知るための基本資料であるばかりか、それ自身が見事な作品なのだ。

発行
岩波文庫 1990年5月18日 第2刷
編者
三好 行雄 (みよし ゆきお)  
タイトル
漱石書簡集 (そうせきしょかんしゅう)  
 
上記著作より、本文書き出し1ページを引用

 明治二十二(一八八九)年
 ご養生は専一に  (五月十三日 正岡子規あて)
 今日は大勢 罷出(まかりいで) 失礼 (つかまつり) 候。 (しから) ばそのみぎり帰途山崎元修方へ立寄り、大兄御病症 (なら) びに療養方等委曲質問仕候処、 同氏は在宅ながら取込 有之由(これあるよし) にて 不得面会(めんかいするをえず) 乍不本意(ふほんいながら) 取次を以て相尋ね申候処、在外の軽症にて別段入院等にも及ぶまじき由に御座候へども、 風邪のために百病を引き起すと一般にて 喀血(かっけつ) より肺労または結核の如き劇症に変ぜずとも申し難く、 ただいまは極めて大事の場合 (ゆえ) 出来るだけの御養生は専一と 奉存候(ぞんじたてまつりそうろう) 。 小生の考へにては山崎の如き不注意不親切なる医師は断然廢し、幸ひ第一病院も近傍に 之有(これあり) 候へば一応同院に申込み医師の診断を受け入院のご用意有之たく、 さすれば看護療養万事行き届き十日にて全快する処は五日にて本復致す道理かと存候。 かつ少しにても肺患に (かか) るプロバビリチーある以上は 二豎(にじゅ) 膏肓(こうこう) に入らざる前に英断決行有之たく、 生あれば死あるは古来の定則に候へども、喜生悲死もまた自然の情に御座候。


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