エントリーNO.449
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ある婦人の肖像

解説文(「岩波文庫解説総目録」或いは、表紙より引用)

伯母の勧めで、ロンドン郊外の由緒ある館を訪れたアメリカ娘イザベルは、 伯父やいとこのラルフらと出会い、ヨーロッパの円熟した文化に強く魅かれていった。 美しいイザベルの前には次々に求婚者が現れたが、自由に生きたいと願う彼女は迷いつつ断る。(全3冊)

発行
岩波文庫 1996年12月16日 第1刷
著者名
ヘンリー・ジェイムズ  
タイトル
ある婦人の肖像 (あるふじんのしょうぞう) 全3冊  
 
上記著作より、本文書き出し1ページを引用

     第一章
 ある状況の下では、午後のお茶という名で知られている儀式の時間ほど楽しいものは、人生においてあまり見当たらない。 お茶に加わるかどうかにかかわりなく----というのも人によっては加わる可能性のまったくない人もいるからだが---- お茶を楽しむ雰囲気だけでも充分に心地好い場合というものもある。 この単純な物語を語り始めるに当って、今、私の頭に浮んでいるのは午後のお茶の場面にうってつけだ。 ある古いイギリスの館の芝生の上にお茶の道具が並べられている。 よく晴れた夏の日のまことに申し分のない午後もやや過ぎていたが、日が落ちるまでにはまだ何時間もあり、 それまでの数時間こそ実にすばらしく貴重な時間なのである。 暗闇の訪れるのはまだ数時間先のことではあるが、みなぎり (あふ) れていた夏の光はもうおだやかになりはじめ、 大気はまろやかになり、影が手入れの行き届いた、密生した芝生の上に長く伸びている。 しかしその影はゆっくりと長くなって行くのみであり、その場の情景はこれから訪れるゆったりした楽しみへの期待感を表していた。 このような時刻にこのような場面がもっとも楽しいと感じられるのは、まさにこのような期待感からであろう。


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