エントリーNO.439
岩波文庫を1ページ読書
狂人日記

解説文(「岩波文庫解説総目録」或いは、表紙より引用)

長官令嬢に恋してしまった小心な小役人の「おれ」。 ままならぬ現実との葛藤に思いはつのって苦悶は増すばかり、ついに理性は混迷の底にしずみ空想は妄想、妄想は幻覚へと化してゆく・・・。 日記に次つぎと吐き出される主人公の滑稽かつ悲痛きわまりない饒舌の中に人間の悲劇がうかびあがる。

発行
岩波文庫 1983年10月17日 第1刷
著者名
ゴーゴリ   
タイトル
狂人日記 (きょうじんにっき)他二篇  
 
上記著作より、本文書き出し1ページを引用

    ネフスキイ大通り
 ネフスキイ大通りよりりっぱなものは、少なくともペテルブルグには何ひとつない、この都にとって、この大通りは一切をなしているのだ。 都の花ともいうべきこの通りに輝かしくない何があるだろう! この都に住むあまりぱっとしない、役所勤めの連中にしろ、だれ一人、このネフスキイ大通りを、どんな仕合せをもってしても、取り替えようなどとはしないだろう、そのことを、わたしは知っている。 見事なひげを生やし、すばらしい仕立てのフロックコートを着た、生まれてまだ二十五歳の者ばかりではない、顎には白毛がとび出し、頭は銀の皿のようにつるつるの者までが、このネフスキイ大通りには有頂天になっているのだ。 では、ご婦人がたにとっては!おお、ご婦人がたにとっても、このネフスキイ大通りは更にいっそう快適なのだ。 そうだ、一体だれにとってこの通りが快適でないことがあろう? ネフスキイ大通りへと入るか入らないうちに、ひとはもうすっかり散策気分になってしまうのだ。


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