エントリーNO.322
岩波文庫を1ページ読書
文明論之概略

解説文(「岩波文庫解説総目録」或いは、表紙より引用)

国の独立は目的なり。今の我が文明はこの目的に達するの術なり---- 西洋心酔と保守主義の相確執する明治初期、文明の本質を論じ、文明は文明自らに意味があるとした上で、 今、最も優先すべき課題は日本国の独立であり、西洋文明を学ぶのもそのためであると説く。 『学問のすゝめ』と共に、時代の展開に大きな影響を与えた福沢(1835-1901)の代表的著作。

発行
岩波文庫 1995年3月16日 第1刷
著者名
福沢 諭吉 (ふくざわ ゆきち)  
タイトル
文明論之概略 (ぶんめいろんのがいりゃく)  
 
上記著作より、本文書き出し1ページを引用

   文明論之概略  巻之一
 第一章 議論の本位を定る事
 軽重、長短、善悪、是非等の字は、 相対(あいたい) したる考より生じたるものなり。 軽あらざれば重あるべからず、善あらざれば悪あるべからず。 故に軽とは重よりも軽し、善とは悪よりも善しということにて、 (これ) (かれ) と相対せざれば軽重善悪を論ずべからず。 かくの如く相対して重と (さだま) り善と定りたるものを議論の本位と (なづ) く。 (ことわざ) にいわく、 (はら) () () え難し。 またいわく、小の虫を殺して大の虫を助くと。 故に人身の議論をするに、腹の部は脊の部よりも大切なるものゆえ、むしろ脊に (きず) (こうむ) るも腹をば無難に守らざるべからず。 また動物を取扱うに、鶴は (どじょう) よりも大にして (たつと) きものゆえ、 鶴の (えさ) には鰌を (もちう) るも (さまたげ) なしということなり。 (たと) えば、日本にて封建の時代に、大名、藩士、 無為(むい) にして衣食せしものを、 その制度を改めて今の如く () したるは、 (いたずら) に有産の (はい) (くつがえ) して無産の難渋に (おとしい) れたるに似たれども、 日本国と諸藩とを対すれば、日本国は重し、諸藩は軽し、藩を廃するはなお腹の脊に () えられざるが如く、 大名藩士の (ろく) を奪うは、 鰌を殺して鶴を養うが如し。


copyrighit (c) 2011 岩波文庫を1ページ読書