エントリーNO.288
岩波文庫を1ページ読書
失われた時を求めて

解説文(「岩波文庫解説総目録」より引用)

ひとかけらのマドレーヌを口にしたとたん全身につたわる歓びの戦慄---- 記憶の水中花が開き浮かびあがる、サンザシの香り、鐘の音、コンブレーでの幼い日々。 重層する世界の奥へいざなう、精確清新な訳文。 プルーストが目にした当時の図版を多数収録。(全14冊)

発行
岩波文庫 2010年11月16日 第1刷
著者名
プルースト  
タイトル
失われた時を求めて (うしなわれたときをもとめて) 全14冊  
 
上記著作より、本文書き出し1ページを引用

    第一篇 スワン家のほうへ  T
      第一部 コンブレー
   一
 長いこと私は早めに (やす) むことにしていた。 ときにはロウソクを消すとすぐに目がふさがり、「眠るんだ」と思う () もないことがあった。 ところが三十分もすると、眠らなくてはという想いに、はっと目が覚める。 いまだ手にしているつもりの本は下におき、灯りを吹き消そうとする。 じつは眠っているあいだも、さきに読んだことをたえず想いめぐらしていたようで、それがいささか特殊な形をとったらしい。 つまり私自身が、本に語られていた教会とか、四重奏曲とか、フランソワ一世とカール五世の抗争とかになりかわっていたのである。 目が覚めても、数秒のあいだはそのような想いが残り、べつに私の理性に 齟齬(そご) をきたすこともなく、 目の上にうろこのように重くかぶさり、そのせいかロウソクが消えているのもわからない。


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