エントリーNO.473
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小出楢重随筆集

解説文(「岩波文庫解説総目録」或いは、表紙より引用)

大阪人特有の軽妙なユーモアと辛辣な警句に満ちた洋画家・小出楢重(1887-1931)の楽しいエッセイ集。 谷崎潤一郎をして座談の名手と感嘆せしめた語り口が存分に発揮された46篇の随筆を精選し、愛妻宛ての「欧州からの手紙」をくわえた。 自筆の挿絵を多数収録。

発行
岩波文庫 1987年9月21日 第2刷
編者
芳賀 徹 (はが とおる)  
タイトル
小出楢重随筆集 (こいでならしげずいひつしゅう)  
 
上記著作より、本文書き出し1ページを引用

    T 楢重雑筆
  裸婦漫談
 日本の女はとても形が悪い、何んといっても裸体は西洋人でないと駄目だとは一般の人のよく言う事だ、そして日本の油絵に現れた女の形を見て不体裁だといって笑いたがるのだ。 それでは、笑う本人は西洋人の女に恋をしたのかというとそうでもない、やはり顔の大きな日本婦人と共に散歩しているのである。
 理想的という言葉がある、 (むか) しは女の顔でも形でもを 如何(いか) にも理想的に描きたがったものだ、 西洋ではモナリザの顔が理想的美人だとかいう話しだが、なるほど美しく気高いには違いないが、世界の女が皆あの顔になってくれては (おおい) に失望する男も多いだろうと思う、 (たと) えば私の愛人であるカフェー何々のお花の顔が、一夜にしてモナリザと化けてしまったとしたら、私は困ってしまう。
 どんなに世の中が、あるいは政府が、これが一番だと推奨してくれても、私が好まないものであれば、恋愛は () らに起らないのだ。


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