エントリーNO.362
岩波文庫を1ページ読書
サミング・アップ

解説文(「岩波文庫解説総目録」或いは、表紙より引用)

劇作家としても小説家としても功成り名遂げた六四歳のモーム(1874-1965)が、 自分の生涯を締めくくるような気持で書き綴った回想的エッセイ集。 人間、人生、文学、哲学、宗教等の多岐にわたる話題が、モーム一流の大胆率直さで語られる。

発行
岩波文庫 2007年2月16日 第1刷
著者名
モーム  
タイトル
サミング・アップ  
 
上記著作より、本文書き出し1ページを引用

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 本書は自伝ではないし、また回想録というのでもない。私の人生で起こったことは全て、これまで書いた書物の中で様々な形で利用してきた。 私自身が経験したことがテーマとして役立ち、テーマに見合う物語を語るために一続きの出来事を創作したこともある。 あるいはまた、ほんの顔見知りや、よく知っている人を念頭に置いて、私の作品の登場人物のモデルにしたことも、よくあった。 事実と虚構が作品の中で混じり合っているため、今振り返ってみると、両者を区別するのはもうほとんど無理になっている。 たとえ過去の事実を思い出すことが可能だとしても、すでに創作で充分に活用したのであるから、ここに記録してみても無意味である。 どっちみち、 (なま) の事実を書いたところで、 つまらないものと思われるであろう。 私の生涯は、いろいろ変化もあり、興味深いこともあったけれど、波乱に富むものではなかった。 おまけに私は記憶力に乏しい。面白い話を聞いても二度聞かないと覚えられないし、他の人に話す機会が来る前に忘れてしまうのだ。


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